相続した車の名義変更の話
お亡くなりになったご家族の車、どうしてますか?
私が経験してきた限り「そのままでご遺族が乗っている」ケースが意外と多いのです。結構それでも何の不自由もない、不都合も起きない場合がありますがそれは「現時点では」の話です。
あとは誰も乗る方がいない場合、そのまま購入した自動車販売店に引き取ってもらった、という話も耳にします。敢えてご遺族には言いませんが「ちょっと一呼吸おいて考えてほしかった」と思ったことも一度ではありません。
ここでは「手続」に関することと「車の処遇」に分けてお話しします。
車を相続する
本来の、車を使っていた方がお亡くなりになるとその車の名義は宙に浮くこととなります。ではご遺族や相続人はどうすれば良いのでしょうか。
まずは「車検証」を確認してください。普通、必ず車内に積んであるはずです。グローブボックスであったり、ドアのサイドポケットであったり、よっぽどのことでもない限りは車から降ろす必要がないですし、運転時には常時携帯が法定されていますのでどこかにあるはずです。
しかし運悪く見つからない場合もあります。そんな時は「登録事項等証明書(通称「現在証明」と呼んでいます)」をお近くの「運輸支局(神戸は陸運部)」か「自動車検査登録事務所」で取得します。これは現在車についているナンバープレートの管轄の事務所である必要はありません。オンラインでつながっていますからどこの事務所でもどこのナンバーのものでも取得することができます。ご自身で赴く際は「車のナンバー」と「車台番号」の情報のセットと、免許証等の身分証明書と認印を忘れずに持って行ってください。取得理由も記載しますし、その記載した理由が不十分であれば窓口で口頭で説明を求められることがあります。
車のナンバーはすぐに確認できますが「車台番号」は一体どこを見ればよいのでしょうか。通常はボンネットを開けるとエンジンルームのどこかに「コーションプレート」という名刺大の鉄板、若しくはステッカーが貼ってあり、そこに記載されています。見つからない場合は各ドアの縁やドアとドアの間の柱を探してみてください。それでも分からなければ自動車に詳しい人や自動車に関する仕事の人に助けてもらいましょう。
車検証にしろ、登録事項証明書にしろ、何を確認するかといえば「その車両の所有者が誰であるか」です。故人の車であっても所有者が自動車販売会社になっているケースもあります。「え?あの人はこの車を現金で買ったはずだが、なぜ・・・」と思っていても実際に自動車販売会社が所有者となっている場合が結構あるのです。
余談ではありますが、販売会社によっては現金で買われたとしてもお客様から指摘されない限り「ご高齢」のお客様の場合には所有権(販売会社を所有者とする)を設定すると聞いたことがあります。本来所有権はご本人にあるべきなのにこれは納得できないかもしれませんが、理由は「もしもの時にみんなが楽だから」です。それはこれから読んでいただければ分かると思います。
所有者が自動車販売会社だった場合
この場合はお亡くなりになった方の「死去を証明する書類」、死亡除票だったり戸籍謄本など、そして法定相続人(親族)であることの証明書類(従前、戸籍謄本と印鑑証明など)、第三者であればそれに加えて法定相続人からの委任状くらいを整えれば販売会社は名義変更に必要な書類一式を発行してくれます。この場合には「遺産分割」を考慮せずに「自動車を名義変更できる状態」にできるわけです。販売会社は遺産分割に関与する必要がないのですから。
だからこそさっさと片付けることができる、もしくはその所有者である自動車販売会社が第三者として最初に情報を得られるわけですから「お車、ウチで引き取りましょうか?」とできるわけです。そこでの注意点は後述します。
ごく稀に書類を発行してもらえないケースもあります。その自動車販売店に対する債務(未払いの車検代、修理代など)がある場合です。その車がお亡くなりになられた方の会社名義であったり、(個人)事業主であれば債務の存在や金額を証する書類を発行してもらい、ご遺族が支払うか、法人が存続するなら法人が支払うか、など清算することが必要ですが、全くの個人の場合は相当懇意にでもしていない限り「掛け売り」する方に過失があると私は考えています。しかも車両を引き渡していれば本来自動車販売店側は「留置権(債務を清算してもらわない限り車を渡さない)」も主張することはできません。ここはご遺族のご判断となりますがくれぐれも確認もせず先方の言い分だけでお金を支払ったり車を引き渡したりしないでください。
ファイナンス会社が所有者だった場合
では「ファイナンス会社が所有者」だった場合はどうでしょう。この場合には注意が必要です。車そのものに対する残債務(オートローンやリース)がある可能性があります。まずは所有者となっているファイナンス会社に連絡をして事情を説明し、残債務の有無を確認します。残債務がなければ前述の書類(戸籍謄本や相続人代表者の印鑑証明など)を指定すると思いますので指示に従えば書類一式を送付してもらえます。
残債務があればそれの清算を求められます。ファイナンス会社もこんなケースでは親切なので、車をご遺族が使用したい場合は支払いを引継いだりすることも審査のうえで認めてくれると思います(再契約といいます)。しかし基本は「一括清算」です。遺産分割のために車を換金する予定だったり、継続してご遺族が使用するにしても残債務額が小さい場合はきちんと清算しましょう。
一括返済や引継げないほど残債務が高額だったり、車以外にも債務が多くあり「相続放棄」をする場合は車両はファイナンス会社へ返却し、そこによって換価処分されることとなります。手順としては、換価処分して剰余金が生まれたときは相続人へ支払われますがそのようなケースは多くありません。多くの場合は換価処分をしても残債務が残り、相続人へ一括請求されます。それを受け家庭裁判所の「相続放棄」の申述書の控え(謄本など)をファイナンス会社へ送付して請求を止めてもらいます(順序が逆であっても可能です)。
所有者が故人ご本人だった場合
ここが本題です。お亡くなりになった方が車の所有者の場合には車両も「相続財産」となる(それ以外でも「相続財産」であることに違いはありませんが)わけですが、法定の登録手続(相続原因による移転登録:同時に抹消登録や第三者への再移転登録(W移転)も可能です)が必要になります。
これが結構難解、かつ手間がかかるものなので「そのまま放置してご家族が乗る」ケースを生む理由かと思います。しかし、そのまま乗り続けても好きな時に換価処分できるわけでもなし、乗り潰しても最後には抹消、解体処分が待っています。その時間経過によって取得できた書類ができなくなっていたり、余計に手続きが複雑化してしまい「税金だけ止めてもらう」「抹消登録はできないけどナンバーだけを外して解体屋さんにもっていってもらう」という何ともスッキリしない変則的処理をせざるを得ない状況が先々待ち受けることになるのです。
相続した車の名義変更
相続と言っても複数のケースや多種多様な相続関係が考えられますし、それによって名義変更の仕方も変わってきます。
遺言書が残されている場合
所有者が故人ご本人で、遺言書が残されている場合は相続人代表者、遺言執行者がそれを実現します。難しく書きましたが要は故人の意思を優先しましょう、ということです。遺言書には「Aさんに車をあげる(贈与する)」と記してあるのにBさんへあげるのは意向に反しますよね。仮に事情があってそうせざるを得なくても登録(名義変更)では遺言書をもってまずAさんへ名義を書き換えることができます。
その遺言書にも「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」という種類があります。「公正証書遺言」は公証されたものですのでその謄本をもって名義変更の添付書類とします。「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」は家庭裁判所の検認手続きが必要ですので、それが済んでいるもの(裁判所の「検認済印」があるもの)を添付します。もちろん、遺言記載内容に車の特定(登録番号や車台番号が記載)され、かつ相続させる人の特定(氏名、生年月日、続柄など)が記載されていることが必要です。
公正証書遺言は作成時にチェックが入りますので間違いはまずありませんが、自筆、秘密証書遺言の場合は記載が足りない場合があります。例えば「私の車をAに相続させる」という文言だけだったり、車名や車台番号などが間違えていたりするケースです。この場合はその遺言書では名義変更をすることはできないものの、ご遺族はその意味が分かるでしょうから故人の意向をくんで後述する遺産分割協議で書類を作成することとなります。
相続人間でモメている場合
遺産分割で相続人間でモメることはよくあるケースです。この場合には調停だったり、裁判となることもあります。車のことだけで、ということは少ないでしょうが、分割が成立するまでは共有財産ですのでこれのカタがつかないと名義変更もできないことになります。
この場合には調停の結果まとまった調停調書、確定が証明された判決正本が添付書類(原本提示、写し提出)となります。これには具体的に「(故人)所有の車両(車台番号など車両を確定させる情報)はAに分割相続することとする」的な内容なので別途遺産分割協議書などは必要ありません。
遺産分割協議を行った場合
相続人間で遺産分割協議を行い、「じゃあ車はAに、ということで」と話がまとまった場合は遺産分割協議書が添付書類となります。ただ、遺産分割協議書は車だけではなく不動産など様々な財産の分割を記すのが一般的ですから、「原本提示、写し提出」も認められますし、具体的な財産内容や預金額など見られたくない部分がある場合は自動車登録提出用の遺残分割協議書(証明書:自動車に関する名義変更専用として)を別に作成することもできます。

遺産分割協議書による名義変更は、相続人全員の実印を捺印、全員の印鑑証明添付、故人との関係を証する戸籍謄本が必要です。大きな遺産があり、相続人が集合して分割協議を行わなければならない場合ならともかく、そんな大きな遺産もなく、しいて言えばこの車くらい、という相続のケースも多々ありますが、大抵みなさんここで面倒になってしまうことが多いです。相続人さんが全員近隣に住んでいることはなかなかありませんし、相続人さんが多かったり、連絡した上での郵送のやり取り、相続人に未成年者がいれば特別代理人をたてなければならないなど、考えるとうんざりしてしまうケースもありますが、やらなければなりません。しかし、あるケースに限り手続きが緩和されています。
簡易でできる場合(車両価額100万円以下)
故人が所有者となっている自動車の名義変更が簡便にできる場合があります。それは「相続される車両の価額が100万円以下の場合」です。この場合は前述の「遺産分割協議書」ではなく「遺産分割協議成立申立書」という専用の書式を利用します。これを利用すると車の名義人となる相続人以外の書類が必要なくなります。

閲覧していただけると分かりますが、お亡くなりになった方、対象となる車、相続した人(次の所有者)の記載欄しかありません。その文面を読むと、ざっくりと「ちゃんと協議して私の名義にすることで合意してます。お役所さんにはご迷惑はかけません。何かあったらこちらで解決します」という感じでしょうか。
これを利用すると次の名義になる相続人の書類以外は必要ありません(もちろん戸籍謄本や印鑑証明などは必要ですが)。極論、一人の相続人が勝手に自分のものにしてしまうことも可能であるとも言えます。価額が100万円以下であることの条件はそんなトラブルを予定したものなのでしょう。たかが100万、されど100万、この方法で名義変更をする時にもきちんと相続人全員に了承を取りつけるべきであることは言うまでもありません。終局、価額に関わらず別の相続人が訴えることもできるのですから。
さて、このケースにおける「価額100万円以下」についてです。価額とは車両の価格を指しますが店頭で並んでいる車のプライスなのでしょうか、それとも買取屋さんなどで提示された価格なのでしょうか。答えは曖昧です。ネットで調べたり、中古車雑誌などを立ち読みすればその車と同じ車種、年式、グレード、走行距離ような車がどのくらいの価格で売られているかくらいは分かると思います。明らかに、どう考えても100万以下だ、という場合もあるでしょうが、私はきちんとした「査定証」を添付することをお勧めします。
要件上は「査定証または査定価格を確認できる資料の写し」となっていますが、「査定証」であることに越したことはありません。では査定証とは何を指すのでしょう。
自動車販売に携わるものであれば「車両を査定し」「(買取)価格を提示する」ことは基本中の基本ですからどこでもできるかと思います。しかし、買取店などでは書面の発行を嫌がるところが多いです。それは他社と天秤を掛けるための材料とされることを避けるためでもあります。つまり車を買取るという目的で仕事をしているので「ウチに車を売ってくれるならば」であればまだしも「査定し、書面の交付のみ」は仕事ではありません。かといって別に査定料金を取ると、ほぼ全ての同業が「査定無料」をうたっていることに反することになります。これは通常の自動車販売会社でも同様です。みんな「売ってくれるのなら」と期待をしてしまうのです。
名義変更をして自分で乗るつもりなのに・・・という方にはやはり多少のコストを負担して正式の査定証を発行してもらった方がスッキリすると思います。特に100万以下となるか微妙な車については一般の買取店や販売会社などではリスクともなります。どう解釈しても100万を超えるにもかかわらず無理矢理100万以下の査定証を作成した結果、異議を唱えた他の相続人から算定根拠を求められたり、相続の移転登録の無効の求め、果ては訴訟に駆り出される可能性も否定できないからです。
一番この査定証に強いのは日本自動車査定協会という組織が発行するものですが、私自身がこの査定協会の査定士であること(所属は併設法人名)、これまでの債権債務の仕事経験で幾度となく価額算定根拠を求められ、説明、資料の提出をした経験を持ち、算定方法は査定協会基準に準拠しながらも基準価格を「実勢卸売相場価格」においた査定を行っています。
もちろん、私が100万を超える価額を算定すればその通りにお伝えせざるを得ませんので遺産分割協議書方式へ移行することとなりますがこちらは行政書士の本業として携わることが可能です。
車を換価処分する場合
誰も乗る予定がない故人の車は言葉は悪いですが自動車販売会社や買取店にとって「おいしい案件」です。
「じゃあ、うちの方で誠実に買い取らせていただきます」となるはずです。多分憔悴しているご遺族にとっては「他にもやらなければならないことはたくさんあるからさっさと・・・」という気持ちが働き、安易に処分をしてしまうケースをよく聞きます。しかし、故人の愛車です。そして相続人さんにとってもなるべく高額に評価してもらうに越したことはないはずです。
少し面倒かもしれませんが絶対に一か所の提示価格だけで契約はしないでください。
弊所が「換価処分代行(実働は併設会社)」をうたっているのは私が様々な場面を見てきたからです。ご遺族からのお話、故人が大切にしていた車であること、それを聞くと適当に扱うと何か天罰が下りそうな不思議な気持ちになります。故人が天の上から「大切にしていた車、人の足元見やがって。高く売らないと(買わないと)承知しないぞ!」という感じでしょうか。
私が経営しているのではありますが、併設会社が目指す「あるべき姿」は弊所にもつながります。公明正大な価格決定過程、手数料方式、売却に係る経費一式も開示するという透明性の高いオートオークション代行方式、最低入金額を保証し、そのために「高く売るための努力」をする、売却の際の入金総額から経費、手数料を控除した全額をお客様に還元。もちろんオートオークションにそぐわない車種、状態の場合もありますので一定の基準を設けてそれ以下であれば買取方式へ切り替え、買取価格の根拠もきちんとご説明する。これが中古車流通に携わる者の信用を高めるはず、と信じています。
ご興味があれば一声おかけください。この車両換価処分スキームはファイナンス企業の債権処理のために作成し、実績を重ねてきたものですが、行政書士となった私は相続車両の売却に一番適性が高いものと感じております。