名義変更できない?車の話

普段、ご自分の車検証をじっくりとご覧になったことはありますか?

名義の部分に自分の名前が書いてあると思いますが、その上や下に購入した販売店の名前や知らない会社の名前が記入されていませんか?

え!車検証に知らない「所有者」が!

車検証の記載欄に「所有者」と「使用者」があることは車検証をご覧いただくと分かってもらえると思います。ご自身の氏名住所しか記載されていなければ今後困ることが起きる可能性は低いです。、しかし、車検証の「所有者」欄に自動車を購入した販売会社、ファイナンスを組んだ信販会社やリース会社の名前が書いてある場合は後々つまづいてしまう可能性があります。

まず、「所有者」と「使用者」がなぜ分けられているのでしょう。ちょっと難しいですが、法的には「所有権絶対の原則」と言う言葉があります。これはその言葉通り「持ち主(所有者)」が一番エライ、みたいに考えてください(ちょっと違うんですけどね)。そのモノについての様々な権利は所有者にある、ということです。

全額返してもらうまでの間の鎖

「不動産」と言う言葉は誰でも耳にしたことがあると思います。そうです、家とか土地のことを指します。これもその言葉通り「不動」だから不動産なんですね。方や自動車はどうでしょう。自動車はうろうろ動くから単純に「動産」となるのでしょうか。

普通車(軽自動車以外の4輪)は、一応扱い上は動産ではあるのですが不動産登記制度を準用した「自動車登録制度」の下にあるので単純な動産ではなく不動産と動産の間、不動産ほどではないけど行政がその権利関係を個別管理する登録制動産、みたいな感じでしょうか。ですので、あまり一般的ではありませんが自動車にだって抵当権を付けることもできるんです。一方、軽自動車は「動産」とされています。

銀行から住宅ローンを借りて家を建てると、土地や建物に抵当権というものをつけられます(設定する、といいます)。これでいくら登記上の家の持主があなたであっても、払い終わるまでは勝手に売り払うことができなくなります(いや、「抵当権付」でも売れるんですけど消さない限り競売されてしまう危険が残ります)。

ではクルマの場合はどうでしょう。

そもそもファイナンス会社にとっては「全額返してもらうまでの間、勝手な転売を制限し、いざとなったら自分たち主導でクルマを取り上げてさっさと換価処分する」という手段があれば十分なのです。抵当権だとファイナンス会社以外の第三者がクルマに後順位抵当権を付けてしまうことができますし、自動車は比較的換金しやすいにもかかわらず、支払いが滞ったからといっていちいち面倒な裁判所の手続きを経て競売で処分するのは現実的ではありません。今は数千万円の建設重機や高価な大型トラックくらいにでないと抵当権は利用されていないと思います。

こんな理由で、物に対する権利を保全するために「所有権」をファイナンス会社が握り(ローンやリースを契約した時点で所有権はファイナンス会社となります)それを「登録」します。それがいわゆる「所有権留保(の登録)」です。それによって「ツケを払い終わるまで」は所有者の許可なく名義変更ができなくなるのです。

所有者の名義

今はファイナンス会社が直接「所有権留保」するケースが増えました。「・・・信販株式会社」「株式会社・・・リース」というカタチです。

しかし、大手さんやメーカー系の販売会社さんなどはいまだに自分の会社の名義で所有権留保しているところもあります。この違いは何でしょう。

かつてはファイナンス会社さん自身の名で所有権留保をするのはリース会社さんくらいでした。その他は「加盟店(ファイナンス会社と契約をした自動車販売会社)さん」に所有権留保を委託していたんです。これが当たり前で、街の小さな中古車屋さんでも自分の会社の名前で所有権留保をしていました。理由はズバリ「コスト」。印鑑証明1通で500円、そして委任状を実印で作って発送、支払いが終了したお客様に対して所有権を解除するためにまた委任状、印鑑証明、譲渡証明書・・・ファイナンス会社さんは全国企業ですから事務コストが莫大となります。ですので、お客様と近い販売会社に所有権留保の名義を任せよう、と・・・。

しかしそれがのちのち大変なことを引き起こすようになります。

潰れまくり!!

ちょうど私が自動車業界に足を踏み入れたころ、バブル崩壊でどこも右肩下がり。企業というものは永遠に存在できるものではありません。もちろん波の大きい自動車販売業界は大打撃を食らいます。

メーカー系新車ディーラーさんでも倒産するところが出るくらいでした。ただ、そんなところはブランドに傷がつきますからメーカーさんが介入し、会社を立て直すことができます。でも専業、独立系と呼ばれる自動車販売会社は誰も助けてはくれずバタバタと潰れていきました。

私がずっと言い続けていることではあるのですが、「会社のたたみ方」、これをないがしろにする、知らない、考えない経営者が多かったのもあの時代の自動車販売業界の特徴でした。一時期、財を成した社長さんも一気に転落。転落するだけならいいんですが、これまで散々お世話になってきたお客様たちがのちに大迷惑を被ることを確信しながら、何の整理、対処の手配もしないまま自ら命を絶ったり、行方をくらましてしまったり。

そんな中でもきちんと顧客連絡、対処の手配をしたうえで法的整理をした社長さん達を私は尊敬したものです。それくらい「荒れた」時代でした。

「会社のたたみ方」をないがしろにした経営者によって一番迷惑を被ったのは膨大な「所有権留保」されたお客様方でした。

「あなたの車の所有者に記載されている会社が夜逃げしました」なんて連絡が行くはずもなく、すでに支払いが終わった人が事実を知らぬまま買換えの時に指摘されて「え?!」となるケースが頻発します。きちんと法的処理されている会社であれば「管財人」さんがいますからどうにかできます。しかし時間が経過しすでに閉鎖登記も済んでいる(手続が全部終わった状態)となると管財人さんも退任していますのでどうしようもなくなります(そうであっても私が関わった多くの元管財人さんはちゃんと事情を考慮してくれ、対処してくれました)。

そして問題になったのが「支払い途中」のお客様たちです。

貴重な経験だったのですが、その頃ちょうど私は行政書士事務所に席を置いており、某信販会社さんから依頼されていた「加盟店倒産案件」の処理の一部始終を見ることができました。

車検証上の所有者欄には「潰れた会社」が記載されてても、支払い途中のお客様(契約者)の債権者はファイナンス会社、つまり法的な所有権者はファイナンス会社にあり「潰れた会社」には加盟店契約で車検証上の所有権留保を委託していた関係である。という構図なのです。

それを1件1件契約者さんと連絡を取りながら「所有者変更(潰れた会社の名義からファイナンス会社へ)」してましたね。事務員さん多忙で泣きそうでした。ファイナンス会社のコストも膨大。しかもこのようなケースが不況の折の当時、全国的に多発していたようです。

でもきちんと処理してあげないと大企業の看板にヒビが入ります。本来は「支払い途中(債権が生きている状態)」のお客様だけ処理すればよかったのですが、結局ファイナンス会社が支払いが終わったお客様の分もデータが残っている限り全部やってあげていました。情報は一定期間残るので遡れますからね。あれは立派だったと思います。

その信販会社だけじゃなかったのでしょう。その時代から「ファイナンス会社による直接所有権留保」が主流となり、専門の書類発行代行会社もできました。それが「登録管理ネットワーク」さん「JCM」さんだったわけです。

契約時に誰が所有者になるのかを確認しよう!

そういっても実は販売会社による「所有権留保」は今でも残っています。メーカー系新車ディーラーさん以外でもです。

この場合、そこの販売会社はファイナンス会社の加盟店審査(所有権留保を委託しても大丈夫だろうという)に合格しているそれなりの力を持った販売会社だと思います。仮にそこが潰れたとしてもきちんと整理されるでしょうし、最終的にはファイナンス会社が責任をもって対処してくれるはずです。

ファイナンスを組んでいなくても所有権留保されることがある

しかしそれでもすべきことは「支払いが完了(完済)したら即所有権を解除する(名義を変える)」ことです。完済月の翌月、翌々月には「完済しました」というはがきか書面が届くはずです(住所変更をした場合はちゃんと自分からその旨を連絡しましょう)。それをもって所有者となっている販売会社に所有権解除の請求をしてください。

一方、ファイナンスも組んでいないのに「所有権留保」されることもあります。これは理由がよくわからないまま勝手に行われる場合もあります。一番多いのはお客様が未成年だった場合ではないでしょうか。

未成年者を車検証上の「所有者」として登録するには「親権者同意書(親の了解)」が必要です。その添付書類として戸籍謄本(親子関係の証明)やら親の印鑑証明やらも必要になり、売る側としては「早く書類を整えてくれ~!」となるわけです。営業マンには締日ノルマ(登録日が基準)がありますから「ん、じゃあ上手くやるよ!」的に会社の所有権を付けるケースは今でもあるんじゃないでしょうか。これであればお客様が未成年でも認印と住民票、車庫証明だけで「使用者」として登録できます。

住民票は委任状だけで簡単に取得できますから、あとは認印だけでOK、手っ取り早いのです。このケースで所有権留保されそうな場合はちゃんと「急いで親から書類を取りますから」と言ってあげてください。営業マンもノルマ達成に必死ですから。

そして、まだ発生していないその他の債権の担保とされる場合もあります。例えば所有権留保されたまま車に乗って事故を起こすとします。買った販売店(所有権留保されている)に修理を依頼して代金を払わなかったら販売店は最終的には所有権留保を盾に法的措置を取れます。特に法人契約であれば車両代金は一括払いでもその後のメンテナンス費用は掛け売り(ツケ)になることが多いのです。そうなると販売店側もリスクを負いますから、現時点ではまだ何のツケがないとしても将来のために所有権を留保しておきたくなるわけです。

以前、私がファイナンス会社の依頼(債務不履行で返却してもらった車)で所有者だった販売店から所有権解除書類をもらおうとした際、このケースがありました。「車検代が残ってる。払ってもらわないと書類は出さない」と。しかし私も口八丁手八丁、「いや、法的所有権者はファイナンス会社さんですよね?その所有権者からの依頼です。御社の車検証上の所有権留保はファイナンス会社の車両代金債権の保全のためのものと加盟店契約書に書いてありますよね?(書いていたので)そもそも法人さんでもない個人のお客様にもかかわらず掛け売り(ツケ払い)したのは御社の与信上の問題では?車検代が払われるまでせめて留置権(払うまで車を渡さない)使ってくれればファイナンス会社も多少協力したんでしょうがね。いやー残念です!」でイヤイヤ書類を渡してもらいました。

あとは、今はもう少ないでしょうが単に「顧客管理」として所有権留保する風習もあります。そうすることによってお客様が他店に車を売った、という情報が入るからです。他店はその車を名義変更する際に必ず所有権留保しているその会社に解除書類の申し込みをしなければなりませんからね。

このように「向こうの都合」だけで所有権を留保されてしまうケースもあるのです。事前に名義の予定を確認すること、事後、承諾していないのになぜ?現金で買ったのになぜ?と思ったら必ず「所有権」を解除するよう申し入れましょう。

もし所有者となっている会社がなくなっていたら

一番考えたくないケースですが、手順を書きます。ファイナンス会社が所有者の場合はここまでいろいろ合併等もありましたが必ず継承会社(事務や権利を引継いでいる会社)があります。そしてそこが書類発行業務を引き継いでいます。ファイナンス会社は社会的責任の大きな会社と位置付けられていますので必ず対処してもらえるはずです。ここでは販売会社だったケースを取り上げます。

まず、ファイナンスの支払い途中であればファイナンス会社へ連絡を入れてください。ファイナンス会社は加盟店管理も重要な仕事ですので大方これで解決への道が見えるはずです。もし「そんなの自分でやれ」なんて言われたら公的機関に訴えてください。そんな会社はありませんから。

ただ、問題なのはすでに支払いが終わっている、ローンを組んでいないのに所有権を付けられているケースです。ローンを組んだ履歴があれば一定期間はファイナンス会社に契約者データが残っています。そして加盟店である販売会社が潰れた時期がそう古くない場合には処理業務が続いている場合もあり、このケースでは善意で救済が受けられる可能性があります。仮に直接救済が受けられなくても、販売会社の管財人、担当弁護士の連絡先など解決のための情報を教えてくれるはずです。

相当な期間が経過している、ローンを組んでいない、「夜逃げ(法的整理もせずなくなる)」だと厄介です。管財人さんの情報が得られてもすでに退任(全部手続き終了)していれば、一応連絡をしてみて救済を求めてみましょう。手続き終了間もなく、心ある管財人(弁護士など)であればこんなことを想定してしばらくの間は対処の準備をしてくれている方もいらっしゃいます。完全に手続が終わっていても解決のアドバイスをくれる場合もあります。

これらの道が全て閉ざされた場合は法的手続きとなります。裁判で判決を取り名義を変えるのです。

弁護士の先生に頼めばそれ相応の費用が掛かりますので車の残存価値との比較が必要です。最悪、見合わなければ都道府県税に事情を説明し、解体処分後に税金の発生だけを止めてもらいます。しかし意外と多く抹消登録できない車両を断る業者さんもありますので手当たり次第探してみてください(監督先への報告や監査の際の対応が相当面倒なのだそうです)。スムーズに解体できても抹消登録ができないのですから今度はナンバープレートが宙に浮きます(解体屋さんはナンバープレートは引き取ってくれません)。関東圏の運輸支局(神戸は陸運部)や自動車検査登録事務所では抹消登録できないナンバープレートは「職権抹消(車検切れから3~5年ほど放置すると強制的に登録が抹消される)」まで返納させてもらえません(その他の地域によっては何も言われず返納させてくれるところもあります)。

費用もかけたくない、でもきちんと整理したい、という人は自分で裁判(本人訴訟)を起こすのも手です。通常は弁護士が代理人として裁判をするのですが、この訴えの場合は結構自分でされている方もいると思います。訴訟費用だけですから法定費用の数万円の出費だけで済むはずです。但し、必要な書類は自分で整えなければならず、登記簿謄本で会社が閉鎖されていないことを証明したり、代表者と連絡がつかない証明(登記簿謄本に載っている代表者や役員への配達証明を発送するなど)、仮に連絡がついても全く対処してくれない時系列の記録などなど(これは不要かもしれません)、このケースは私は弁護士ではないので残念ながら正確にお答えすることはできませんが裁判に必要な書類は簡易裁判所に聞くのも手だと思います。

裁判といっても相手は逃げているわけですから裁判所の出頭命令にもまず出てくるはずもなく、著しい要件不備や極端な状況でもない限り敗訴することはありません。ただ、出訴から確定判決の謄本をもらうまでに数か月はかかるはずです(未確です)。そしてその確定証明の付いた判決文の謄本とその他登録書類をもって名義変更(所有権移転登録)をします。

最後に

いろいろと書きましたが、まず言いたいのは「ちゃんと所有権は解除しよう」ということです。理由が消えたのに所有権留保されたままにしておくといろいろなトラブルが発生したり時間がたつほど手続が面倒になる可能性が出てきます。

規模の小さい販売会社さんを否定するわけではありません。規模が小さい販売会社さんでファイナンスを組んだらまず間違いなくファイナンス会社による所有権留保がなされるはずですし、比較的安価な中古車では所有権留保すらされない場合もあります。ただ、理由の薄い所有権留保が販売店によってなされる場合にはきちんと納得のいく理由を説明してもらってください。注意点としては、自分を所有者とする登録には必ず「印鑑証明」が必要です。そこを「住民票でいい」「認印でいい」となるとイコール所有権を付けられる合図です。

余談ですが、かつてマツダさんが苦境だった頃、たくさんあった系列販売会社さんの合理化が頻繁に行われました。しばらくのち、所有権解除書類一式を取り寄せたところ(存続会社と車検証上の会社とのつながりを証明するための)登記簿謄本が何通も、なんてことがありましたね。その後ホンダさんも大きな合理化を行いましたし日産さんやリース会社系もたくさんありました。今はようやくどこのメーカー系販売会社さん、リース会社さんも落ち着いたところではないでしょうか。

会社は永続ではないのです。くっついたり離れたりならまだ良し。所有権者は名義変更書類を渡してくれるだけで手数料を払ってくれるわけではありませんから、どうしても「買換えまでまあいいか」となりがちですが、やはり

きちんとしたタイミングで「所有権解除」をし、多少の費用が掛かっても名義変更を「しておく」ことが大切な防御

でもあるのです。

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